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2025
12/23
Report vol.01
今回は、木工家具職人さんのスズキさんにお話を伺うため、
埼玉県にあるアトリエを訪ねました。
さまざまなお話をお聞きしましたが、その中の一部をご紹介します。

スズキさんに初めて家具を製作していただいたのは、
弊社が内装設計を手がけた「ライオンズプラザ初台グランフォート」。
そこで使用された造作家具のソファやベットボードは、すべてスズキさんによるものです。

特に印象的だったのは、全長3mにも及ぶアメリカンブラックチェリー材のベットボード。
通常これほど大きなサイズの木材は、いくつかのパーツに分けて製作・運搬し、
現場で組み立てて設置するので、どうしても継ぎ目が出てしまいます。
それは、ある程度仕方のないこととしてしまいがちですが、
この案件では木材を分割せず一体物で現場に収めることにこだわり、
見事継ぎ目のない美しい木の表情をスズキさんは引き出してくださいました。
製作のうえでの合理性よりも、
たとえ手間がかかったとしても、ただひたすらに美しい品を納めることを追求する姿勢。
スズキさんがどのように家具に向き合っているのかを知るため、今回アトリエに伺いました。

「作りたい製品のコンセプト、考え方に沿ってRの取り方も変わってきます」
そう話してくださったスズキさんが教えてくれたのが、
木工加工のひとつである「面取り」です。
面取りとは、木材の角を削って形を整える加工方法のこと。
たとえば、1Rは半径1mmの円で丸みをつけることを指し、
2R、3Rと数字が大きくなっていくにつれて、角の丸みも大きくなっていきます。
Rが大きい家具はやわらかく優しげに、反対に小さいとシャープでスタイリッシュな印象を与えてくれます。
また、Cという単位もあり、これは小さく角を作る方法だそう。

さらに、木を削る際に使う「ビット」という部品の種類によって、
面取りの形にはさまざまなバリエーションが生まれます。


アンティークの家具や、絵画の額縁などを思い浮かべると、
木材の縁に複雑な凹凸が施されているものがありますが、
それらも個性的な面取りの一例と言えるかもしれません。
このように面取りには、
家具として使う際に安全性を高めるために角を滑らかにする、という役割だけでなく、
木材の縁をさまざまな形状にすることにより、
デザインを通して伝えたいこと、いわば設計思想を表現する側面もあるようです。

また、面取りに適した木材についても教えていただきました。
面取り加工ができるのは、ある程度の厚さを持った木材のみ。
その代表例が「無垢材」と呼ばれる、一本の木から切り出した一枚板です。
しかし、こちらは天然素材のため、比較的重くて高級なので、
家具のすべての部分で使うには難しい場合もあります。
そこで採用されるのが、突板などの表面材と合板などの芯材を組み合わせた
「ベタ板」という板の構成です。
そのベタ板のうち、面取りを行う外周部分にだけ厚みのある無垢材を仕込むことで、
必要な加工性を確保しています。
実際に面取り加工で削られるのは、この無垢材の部分のみ。
そのため、仕上がった断面にも同じ木がきれいに現れ、芯材が見えてしまうことはありません。
ベタ板の持つ合理性と、無垢材ならではの美しい見た目。
その両方を成立させるための工夫に驚きます。

何気なく触れている家具のその形には、職人さんの確かな技術と、
それを使うひとへの細やかな配慮が込められていることが分かりました。
次に家具に触れる際は、その「角」にも注目してみてください。